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東京地方裁判所 昭和42年(ワ)4992号 判決

原告(反訴被告) 北辰精機株式会社

右代表者代表取締役 飯塚修一

右訴訟代理人弁護士 鈴木弘喜

被告(反訴原告) オリエンタル光器こと 西野銈一

右訴訟代理人弁護士 吉村節也

主文

壱 原告(反訴被告)の請求を棄却する。

弐 反訴被告(原告)は反訴原告(被告)に対し金参拾四万参千九百九拾五円およびこれに対する昭和四拾参年五月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

参 反訴原告(被告)のその余の請求を棄却する。

四 訴訟費用は本訴反訴を通じ参分しその弐を原告(反訴被告)の負担とし、その余を被告(反訴原告)の負担とする。

五 本判決第弐項は仮に執行することができる。

事実

第一当事者双方の求める裁判

一  原告(反訴被告)

(一)  本訴

被告は原告に対し金八六〇、三七五円およびこれに対する昭和四二年六月一六日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言

(二)  反訴

反訴原告の請求を棄却する。

訴訟費用は反訴原告の負担とする。

との判決

二  被告(反訴原告)

(一)  本訴

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決

(二)  反訴

反訴被告は反訴原告に対し金一、二七一、三四〇円およびこれに対する昭和四三年五月九日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は反訴被告の負担とする。

との判決および仮執行の宣言

第二原告(反訴被告、以下単に原告という。被告についても同じ。)の主張

一  本訴請求原因および反訴請求原因その一に対する答弁

(一)  原告は医療機械等製造販売業、被告は医療機械光学機械等製造販売業を営む商人である。

(二)  原告は昭和四一年三月一五日頃被告あて、検眼用ユニットモデルMU―一〇〇型(検眼器を装置すべき椅子とスタンドとをいい、検眼器を含まない。以下本件ユニットという。)一六台を代金一台八〇、〇〇〇円、附属品たる鋳鉄物を代金六、三七五円合計一、二八六、三七五円、納期同年六月三〇日と定めて製作(塗装組立を含まない。)引渡す旨を約した。

(三)  原告は、被告あて右契約の目的物全部を製作引渡した。

(四)  よって原告は被告に対し右代金中すでに弁済を得た残額八六〇、三七五円およびこれに対する本訴状の送達により被告が遅滞に付された昭和四二年六月一六日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  本訴抗弁と反訴請求原因その二に対する答弁

右(一)(二)は否認する。

右(三)中原告からの納入価格は認め、その余は不知。

右(四)は否認する。

第三被告の主張

一  本訴請求原因に対する答弁および反訴請求原因その一

本訴請求原因(一)は認める。同(二)中納期および塗装組立の約定を争いその余は認める。納期は昭和四一年四月二五日であり、塗装組立は原告において行う約定である。同(三)は争う。原告は本件ユニット一六台と付属品とを納入したが、いずれも約旨通りの完成品ではなかった。

二  本訴抗弁および反訴請求原因その二

(一)  原告は本件ユニットを左の通り分割してしかも納期よりおくれて納入した。

昭和四一年五月三一日 椅子   三台

スタンド 三台

同年六月一三日    椅子   五台

同年六月一五日    スタンド 九台

同年同月二七日    椅子   四台

スタンド 三台

同年七月一五日    椅子   三台

同年同月一六日    ユニット 一台

(二)  原告の納入した右ユニット中椅子とスタンドの上下、立倒、回転等の操作は不能ないし不良であり、回転部分にベアリングがなく、接続部が合わず、ネジ、ビスがなく、ネジのサイズが合わず、ネジ山が切られず、オイルの注入なく又はオイルもれがあり、塗装メッキも不良であって、全体としてがたがたして到底使用に供されるようなものではない。よって原告はこのような不完全履行の責と納期におくれた履行遅滞の責とを負う。

(三)  被告は原告の右債務不履行により次のような損害を受けた。

1 被告は本件ユニット一六台を販売することにより合計一、一一二、〇〇〇円の利益を得べきであったが、これを失った。

その算出方法は次のとおりである。

(1) 本件ユニット一台当り

(ⅰ) 販売価格 一一七、〇〇〇円

(ⅱ) 原価

原告からの納入価格 八〇、〇〇〇円

電気部品費      五、〇〇〇円

包装費        八、〇〇〇円

合計        九三、〇〇〇円

(ⅲ) 販売利益  二四、〇〇〇円

(2) 検眼器(MODEL―ST)一台当り(被告は自ら製作した右検眼器を本件ユニットに組みこんで販売するから、検眼器についても逸失利益を生ずる。)

(ⅰ) 販売価格 一一〇、〇〇〇円

(ⅱ) 原価

ボデー一式 五〇、〇〇〇円

レンズ一式  九、五〇〇円

組立包装費  五、〇〇〇円

合計    六四、五〇〇円

(ⅲ)  販売利益 四五、五〇〇円

(3) 一台当りの逸失利益(右(二)1(1)(ⅲ)と(三)1(2)(ⅲ)の合計額) 六九、五〇〇円

一六台分の合計額 一、一一二、〇〇〇円

2 被告は本件ユニット一台に検眼器を組み込みイギリスの業者に売却したが、前記のような本件ユニットの不完全を理由に、右業者から契約を解除され、代金全部の支払を受けられなかったばかりでなく、右機械自体の返送費用がその価格よりも多額にのぼり、返送を受けるのを断念しイギリスで廃棄させる外なかった。その損害は二六二、九八〇円である。その内訳は次のとおりである。

(1) 廃棄品の価格相当額(これは前記(三)1(1)(ⅱ)、(三)1(2)(ⅱ)の合計額である。) 一五七、五〇〇円

(2) 右売買契約において本件ユニット納期(日本における通関の時期)は昭和四一年四月二八日であり、履行遅滞による損害賠償は一日当り一米ドルと定められているにもかかわらず、原告の遅滞と不完全履行とにより、被告は右ユニットに修理を加え昭和四二年二月一五日に至りようやく買主にこれを納入できたので、被告が買主に対し負担したこの間の約定損害金債務

二九三米ドル即ち 一〇五、四八〇円

3 被告は本件ユニット八台を修理し昭和四二年一〇月までに完成品として売却したが、これにより利益を得るどころか損失合計三三三、五三五円を受けた。その算出方法は次のとおりである(いずれも八台合計)。

(1) 販売価格    四四〇、〇〇〇円

(2) 原価

(ⅰ) 原告からの納入価格 六四〇、〇〇〇円

(ⅱ) 修理費       一一六、四九五円

(ⅲ) 不足部品代      一七、〇四〇円

(ⅳ) 合計        七七三、五三五円

(3) 販売損失    三三三、五三五円

4 残余の七台の売却等による損失は四二三、二〇〇円である。その内訳は次のとおりである。

(1) 被告は昭和四四年四月残余の七台中六台を代金一台当り五〇、〇〇〇円で売却したので、原告からの納入価格八〇、〇〇〇円との差額三〇、〇〇〇円の六台分相当の受けた損失 一八〇、〇〇〇円

(2) 被告はシャット折損ベース欠缺のため残余の一台を売ることができず、ついに昭和四五年三月これを廃棄されるのやむなきに至った。これにより受けた原告からの納入価格相当の損害 八〇、〇〇〇円

(3) 被告は本件ユニット最終納入の翌日昭和四一年七月一六日からこの七台を保管していたが、買取先を探すのに長期間を要し結局昭和四四年三月三一日に及び、この間九八〇日間の保管料一日一台当り二〇円合計 一三七、二〇〇円

5 被告が本件ユニット修理のため、これを修理請負業者あてに運送させた運賃 二六、〇〇〇円

6 右各損害は通常生ずべきものであり、かりに特別損害としても、原告は本件ユニットが輸出用であることを知っていたから、右損害を予見し又は予見できた。

(四)  仮に不完全履行による損害賠償に商法五二六条の適用があるとすれば次のとおりである。

被告は昭和四一年五月三一日原告からはじめて本件ユニット中椅子とスタンドとの納入を受け遅滞なく検査の上、同年六月四日ころ原告あて部品と加工の不足と欠陥および機能上の欠陥を具体的に摘示して通知した。

原告は右通知にもかかわらず、その修理をせず、従前と同じ方法で製作した不完全な椅子等を第二回以降も納入したから、原告はこれらの不完全につき悪意あるものというの外はない。

仮に原告が悪意でないとしても、被告は第二回以降納入を受けたつど、不完全の種類と範囲とを指摘し、最終納入後の昭和四一年八月六日ころ原告あて加工上機能上の欠陥を摘示して通知した。

(五)1  被告は昭和四二年一二月一四日の本件口頭弁論期日において右損害賠償債権中前記(三)123および(三)4(3)のうち昭和四一年七月一六日から昭和四二年九月三〇日までの保管料六一、六〇〇円と(三)5の二六、〇〇〇円を請求し、その順序で原告請求の代金元本および損害金債務と対当額をもって相殺する旨の意思表示をした。

2  被告は昭和四五年五月一一日の本件口頭弁論期日において前記(三)4(1)(2)および(3)のうち昭和四二年一〇月一日以降昭和四四年三月三一日までの保管料七五、六〇〇円を請求し、予備的にこれをもって同様の相殺の意思表示をした。

(六)  右相殺により原告の代金元本および損害金債権は消滅したので被告は右損害賠償債権から右代金債権を控除した残額一、二七一、三四〇円およびこれに対する反訴状送達の翌日である昭和四三年五月九日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第四証拠≪省略≫

理由

一  本件契約の成立、履行、代金債権

原告と被告とが医療機械等製造販売業を営む商人であること、原告が昭和四一年三月一五日頃被告あて本件ユニットを代金一台八〇、〇〇〇円、附属品たる鋳鉄物を代金六、三七五円合計一、二八六、三七五円で製作引渡す旨約したことは争いがない。

≪証拠省略≫をあわせれば、右製作の中には組立塗装も含ませる約定であり、被告は約定に際し原告に対し、これが外国貿易業者からの注文にもとづくもので納期につき厳重な定めがある旨を告げ、かつ本件ユニットが被告自らの設計になるものである関係上、原告にこの設計図を交付し、原告をしてこれにもとづき材料の殆んどを調達させ、右設計図と、被告からのその都度の指示とに従い原告の労力と技術とを用いて本件ユニットを製作させたことが認められる。

≪証拠省略≫をあわせれば、原告は本件ユニットを製作の上被告に順次、

昭和四一年五月三一日 椅子   三

スタンド 三

六月一三日 椅子   五

六月一五日 スタンド 九

六月二七日 椅子   四

スタンド 三

七月一五日 椅子   三

同日ころ  ユニット 一

を提供し、被告はこれを受領したことが認められる。

よって被告は原告あて右代金債権の内金八六〇、三七五円およびこれに対する本訴状の送達により被告が遅滞に付された昭和四二年六月一六日から完済まで年六分の商事法定利率による遅延損害金を支払うべきである。

二  債務不履行による損害賠償

(一)  本件ユニットの不完全履行

1  ≪証拠省略≫をあわせれば次の事実が認められる。

(1) 被告は昭和四一年五月三一日原告からその製作にかかる椅子三、スタンド三の引渡を受け検査した。その結果、三台の椅子につき、いわゆるステなる装置を欠くためペダルを踏むと椅子が下りるが上らず、下りペダルの速度調整不充分であり、上り下りのペダルがカチカチと音をたて、その塗装は不充分であったこと、三台のスタンドにつきそのアーム鋲がなく、直径一〇ミリメートルの無用の穴があり、角皿を装置する穴もなく、シャットをとめるネジが不安定のため被検者が動くと全体ががたがたし、スタンドのうち一台につき鋳物にスがあり油もれをみることが発見された。被告は同年六月四日原告あて書面をもってこのような不充分な点を図面を用いて逐一摘示し、修補を請求した。

(2) 被告は同年六月一三日から七月一五日ころまでに原告より引渡を受けた本件ユニットをそのつど直ちに検査した。その結果、椅子全部につき、ペダルのもみつけと調整部分のメッキ加工とが不良であり、上下ペダルは水平にとまらず、背ふとんのビス取付は不良であり、寝かし器が前方に倒れかかり、下部のゴム張は不良であったこと、スタンド全部につき、その各アームの内部にさびを生じており、トップライトのねじを切らない等のためパイプがはいらず、縦パイプに不用の穴があいており、VTアームの回転部分にベアリングを欠き、つまみのメッキがさび、VTシャットのねじが合わず、つまみのメッキが不良であり、箱型の皿のピンの加工拙劣のため皿がアームより二〇ミリ突出していることが発見された。そこで被告は同年八月六日すぎ原告あてその旨の通知を発し、その修補を請求した。

≪証拠判断省略≫

2  右椅子およびスタンドは形状、仕様、効用にかんがみいずれも本件契約所定の完成品とはいえず、右のような不充分な目的物の製作引渡はいわゆる不完全履行にあたる。

3  本件契約は、前記一のような事情にかんがみ、被告の注文にもとづき原告が本件ユニットという不代替物を製作引渡すことに重点あるものといえるから、その不完全履行の責につき、請負契約の規定の適用をみるというべきである。そして商人間の売買契約の瑕疵担保責任の規定である商法五二六条が、同じく有償契約であることの故をもって請負契約にも適用をみるとしても、果して請負契約の不完全履行にも適用されるか否かは問題の存するところである。

しかしかりに右法条が不完全履行にも適用されるとしても、被告の損害賠償債権は同条によっては制限されない。すなわち前記の事実によると、昭和四一年五月三一日引渡分につき、被告は受領後遅滞なく検査し直ちに原告あて右不完全を通知したというべきであるが、その後の引渡分につき検査が遅滞なく、かつ通知が直ちに行なわれたとはいえない。しかし前記不完全は原告が出荷前検査すれば直ちに発見しうるような程度のものであること、原告は当初引渡分につき被告から不完全である旨の通知を受けていながら、その後の引渡分についても同様の不完全な物を製造していること、以上の事実に≪証拠省略≫をあわせれば、原告は右不完全につき悪意あるものというの外はない。

従って被告の損害賠償債権は同条によっては制限されない。

4  被告は前記修補請求後相当期間を経過した昭和四二年一二月一四日(後記損害賠償請求の日)には右不完全部分の修補に代る損害賠償および履行遅滞による損害賠償を請求できる筋合である。

(二)  損害額

1  ≪証拠省略≫によれば、被告は右不完全がなければ、本件ユニットを輸出向として一ユニット当り一一七、〇〇〇円で販売しうべく、これから原告に支払うべき対価八〇、〇〇〇円、電気部品加工費五、〇〇〇円、包装料八、〇〇〇円、合計九三、〇〇〇円を差引けば、一ユニット当り二四、〇〇〇円の利益を得べきであったこと、ならびに被告は本件ユニットに自ら製作した検眼器を付属せしめて売れば、一個当り一一〇、〇〇〇円の売上を得、その原価はボディ、レンズ、あっせん料、組立、包装等合計して五五、〇〇〇円であるから、一台当り五五、〇〇〇円の利益を得べきであったことが認められる。

2  ≪証拠省略≫をあわせれば、被告は東海光学産業株式会社に本件ユニット一台をイギリス向輸出のため一一七、〇〇〇円で、これに付属する検眼器一台を一一〇、〇〇〇円で転売し、これはさらにイギリスのハーマン・ブッシュ社に再転売されたものの、東海光学産業株式会社は前記不完全を理由に右代金を全く支払わず、かつハーマン・ブッシュ社は同じ理由により右各機械をイギリスにとどめたまま返送しなかったことが認められる。

被告は右取引につき一日当り一米ドルの約定遅延損害金を支払うとの損害を受けたと主張するが、≪証拠省略≫によっても、被告が本件ユニット引渡後五年余を経ても、右違約金を支払ったとは認めるに足らず、又将来これを支払わせられるとも認め難いから、右損害の証明はないことに帰着する。

3  ≪証拠省略≫をあわせれば、被告は昭和四一年五月末ころ片野京一に本件ユニット中輸出した前記一台、後に廃物と化した一台を除く一四台につき前記不完全の修繕(ベアリング等の不足部品の補充も含む。)を依頼し、斉藤運送店、東洋商運株式会社をして右ユニットを片野京一方に運搬させ、片野をして同年八月ころまでに修繕させて被告方に納品させ、昭和四二年二、三月ころ三基塗装工業所をして塗装を行わしめたこと、しかし右不完全による商品価値低下のため、被告は同年六月篠川某にうち八台を一台七五、〇〇〇円で、昭和四四年春ころ同人にうち六台を一台六五、〇〇〇円で売却したものの、残余の前記一台を売ることができず、ついに廃物と化せしめたこと、その原価は、原告に支払うべき対価一台当り八〇、〇〇〇円、一五台分合計一、二〇〇、〇〇〇円、電気部品費一台当り五、〇〇〇円、包装費一台当り一〇、〇〇〇円、包装店までの運賃一台当り五、〇〇〇円、以上三費目の一四台分(売却した分)合計二八〇、〇〇〇円、片野京一あての前記修繕に要した修繕費および前記修繕完了納品までの保管料合計六四、六六〇円(乙第二五号証記載の修繕費等、但し油代金五、六〇〇円は前記不完全の修繕とはいえないから除外した。)、前記運送業者あての運賃一六、四五〇円、前記三基塗装工業所あての塗装代一七、〇〇〇円合計一、五七八、一一〇円であること、被告はこの原価を構成する債務を昭和四二年春ころまでに負担したことが認められる。

4  ≪証拠省略≫によれば、被告は右のほか昭和四二年五月以降本件ユニット修繕等のため金員を支出しているが、これはすでに片野京一に前記のとおり修繕させた後でもあり、かつ本件ユニットの引渡を得てから一年後でもあるから、これが右不完全のみを原因とする支出とは断定し難い。また被告が保管料として前記認定金額以上の金員を支出したと認めるに足りる証拠はない。

5  以上の事実にもとづき、右不完全履行により被告の受けた損害額を算出する。

(1) 完全な本件ユニット一六台販売により得べき利益喪失分(一台当り二四、〇〇〇円) 三八四、〇〇〇円

(2) 検眼器販売により得べき利益喪失分(但し被告は本件ユニット中一四台を現実に売却し代金を回収できたから、被告はこの機会に検眼器も併せて販売し得たはずである。これをしなかった原因は不完全にあるものとは断定し難い、輸出した一台の代金回収不能および一台の売却不能は右不完全を原因とするといえる。よって右逸失利益は二台のみにつき生ずる。) 一一〇、〇〇〇円

(3) イギリスに輸出した本件ユニットと検眼器各一台との代金回収不能による損害(ここでは原価相当分すなわち本件ユニット九三、〇〇〇円、検眼器五五、〇〇〇円のみを計上する。これらの逸失利益はすでに計上ずみである。) 一四八、〇〇〇円

(4) 売却できず廃物となった本件ユニット一台の原価と売却した同一四台の売却損失(逸失利益はすでに計上ずみであるから、売上総額九九〇、〇〇〇円とその原価たる原告に支払うべき右一五台の対価、一四台の電気部品費、包装費、包装運賃、修繕費、保管料、運賃、塗装費合計一、五七八、一一〇円との差額による。) 五八八、一一〇円

(5) 以上合計 一、二三〇、一一〇円

6  これらの損害のうち検眼器販売により得べき利益一一〇、〇〇〇円、イギリスに輸出したユニット等の代金回収不能による損害一四八、〇〇〇円、廃物となったユニットの原価八〇、〇〇〇円は特別損害ではあるが、≪証拠省略≫によれば、原告は昭和四〇年ころ以来検眼ユニットの製造を業としていたことならびに本件ユニットが輸出用である事実を知っていたことが認められるから、原告は右損害を予見できたといえる。

7  履行遅滞による損害の立証はない。

三  結論

被告が昭和四二年一二月一四日の本件口頭弁論期日において右損害賠償債権を請求しかつ前記代金債務と対当額で相殺する旨の意思表示をしたことは訴訟上明らかである。

これにより被告の本件代金元本債務八六〇、三七五円およびこれに対する昭和四二年六月一六日から同年一二月一四日までの年六分の割合による右損害金債務二五、七四〇円は消滅し、被告の右損害賠償債権はその限度で消滅し、元本三四三、九九五円およびこれに対する右請求により遅滞に陥った後である昭和四三年五月九日から完済まで年五分の割合による遅延損害金のみを残すこととなる。

よって原告の請求は全部理由がなく棄却すべく、被告の反訴請求は右の限度で理由があり認容し、その余は理由がなく棄却すべく、民事訴訟法八九条九二条一九六条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 沖野威)

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